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インフルエンザウイルスの感染に糖の一種であるシアル酸が関わる事実はよく知られている。インフルエンザウイルス粒子の表面にはヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の2種類のスパイクタンパク質が存在し,ウイルス粒子が宿主細胞に付着する際にはHAが細胞表面のシアル酸に結合することが必須である。一方,宿主細胞内で増殖したウイルス粒子が放出される際には,NAがシアル酸を加水分解することで宿主細胞の表面にトラップされることを防ぐ。仮にこの事実を知らなくても,多くの人々はNAの特異的阻害剤であるタミフルやリレンザの恩恵を受けている1,2)。インフルエンザウイルスに限らず,感染に際して多種多様なウイルス・細菌・原虫の糖鎖認識タンパク質(レクチン)が宿主の糖鎖を利用しており,「病原体と宿主糖鎖の結合」は感染症治療薬の作用点として注目されている3,4)。
一方,宿主免疫系のレクチンが病原体表面の糖鎖を認識することも古くから知られている。最も古典的なのは血中のマンノース結合レクチン(マンナン結合タンパク質とも呼ばれる)が細菌・真菌・ウイルスなどの表面に露呈したマンノースやN-アセチルグルコサミンのクラスターを「異物」として認識し,補体カスケードを活性化することにより排除する「レクチン経路」であろう5,6)。近年の免疫学の発展により,特に自然免疫系細胞に発現する多様なレクチンがウイルス・細菌・真菌・原虫などの病原体を認識し,ある時は宿主に,ある時は病原体に有利な結果をもたらす仕組みが明らかにされつつある。
本稿ではウイルス感染において,ウイルスのレクチンが宿主の糖鎖を認識するケースと,宿主のレクチンがウイルスの糖鎖を認識するケースについていくつかのトピックを紹介し,さらにウイルス感染における糖鎖のその他の役割について事実に基づく推測を交えながら考察する(図1)。なお,インフルエンザウイルス感染における糖鎖の役割に関しては優れた総説7,8)があるのでそれらをご参照頂きたい。
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