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慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)は肺気腫と慢性気管支炎の総称であり,喫煙習慣などによるマトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)の活性化による肺間質の破壊を主因とし,さらに白血球の遊走・浸潤を伴う炎症である。COPDによる死亡者は増加の一途を辿っている中,その病因究明および治療法の開発が急務となる。われわれは糖タンパク質のN-結合型糖鎖の根元のGlcNAcにalpha 1,6フコースを転移する酵素(Fut8)の欠損マウスを作製し,Fut8と肺胞壁の破壊との関連を解析した。さらに,Fut8のヘテロ欠損マウスを用いた喫煙暴露実験を試みた。本稿はFut8欠損マウスを中心にその研究から得られた知見を紹介する。さらに,細胞外マトリクス成分であるグリコサミノグリカン(GAG)のMMPの阻害活性を概説したい。
COPDは,肺胞壁の破壊による肺気腫と,粘液の過分泌を伴う中枢気道の慢性的な炎症による慢性気管支炎を基本病態とし,中高年の喫煙者に発症する慢性,持続性の閉塞性換気障害を呈する疾患群である。COPDの主な原因は長期喫煙である。そのほか,受動喫煙や大気汚染,粉塵など外的環境因子や,加齢,栄養失調,タンパク質分解酵素阻害物質の欠損(例えばα1-アンチトリプシン欠損症),細胞外マトリックス分解因子の増加などの内在因子に関係すると考えられる。他の主要疾患に比べてCOPDの患者数が急増しており,全世界におけるCOPD有病者は2.1億人,毎年の死亡者は300万人と見積もられており(世界保健機構,2008年),2020年には世界死因の第3位になると予想されている。COPD患者は感染症によって,容易に重篤な全身症状を引き起こし,非常に高い死亡率(5~14%)に繋がる。昨年,全世界で猛威を振った新型インフルエンザによる感染死者の1割はCOPDの罹患者である(厚生労働省統計,2009年)。一方,COPDにおいては,加齢あるいは慢性喫煙による肺胞中隔結合組織の破壊と修復機構の不均衡が疾患の発症に関与するという説がある。また,COPDは現時点では完治不能な疾患であり,その治療は禁煙・気管支拡張剤の投与を中心とした対症療法である。ターゲットを絞った治療法が確立されていない。本稿では,われわれの知見を中心に解説し,COPDの発症・治療における糖鎖の役割について触れたい。
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