Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
脳科学を飛躍的に発展させるためには,脳の高次機能とその病態に至るメカニズムの解明を目指した新たな実験技術の創出とともに,個体レベルの研究を格段に進歩させることが必須である。個体レベルの研究推進には有用なモデル動物の開発がきわめて重要な鍵を握る。国内外をとおして,さまざまな発生工学的手法(トランスジェニック法,ノックイン法,ノックアウト法など)による遺伝子改変動物の作出には,従来マウスを中心とするげっ歯類が用いられてきた。マウスは均一な遺伝的背景下ですべての遺伝子の機能を系統的に解析できるだけでなく,繁殖効率や飼育スペースを含むコスト面からも最も現実的な選択肢であった。しかしながら,マウスは高次脳機能や精神・神経疾患の解析に必ずしも理想的な実験動物ではなく,また,脳そのものが小さいため,個体レベルでさまざまな実験操作を自在に加えることが困難である。
他方,サル類は侵襲的な実験に使用される動物の中で進化的に最もヒトに近縁であり,身体の構造や機能もヒトに類似しているため,医学・生命科学の研究にきわめて重要な役割を果たしている。例えば,エイズウイルスや肝炎ウイルスなど,サル類でのみ感染が成立するような感染症の病因を解明し,治療法や予防法を開発する上でサル類を用いた実験研究は欠くことができない。また,サル類,特にマカク属は高度な認知課題を学習・遂行する能力に優れている。事実,マカク属に分類されるニホンザルやアカゲザル(以下,サルと総称する)では感覚機能や運動機能だけでなく,学習・記憶や認知などのさまざまな高次脳機能や,それらを支える神経回路に関する解剖学的,生理学的知見がかなり集積されている。したがって,高次脳機能の解明とその障害を引き起こす精神・神経疾患の病態解明,さらに画期的な治療法の確立にもサルの実験的利用は欠かせない。
Copyright © 2010, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.