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ガングリオシドとは,糖鎖上に一つ以上のシアル酸(N-アセチルノイラミン酸)が結合しているスフィンゴ糖脂質の総称である。ガングリオシドは脳の灰白質に最も多く含まれ,細胞の増殖・分化,神経栄養因子,神経突起伸長,神経組織の修復など様々な生理活性を持っている。また,細胞膜に局在するガングリオシドは,種々の成長因子受容体と相互作用し,シグナル伝達に関与するほか,細菌やウイルスに対する受容体の機能や,がんとの関連性も示されている。一方,細胞膜のガングリオシドはエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ,細胞内小器官であるライソゾーム内の加水分解酵素により分解される。ガングリオシド蓄積症は,ライソゾーム内の加水分解酵素やその活性化蛋白質の遺伝的な欠損により発症し,基質であるガングリオシドが脳や他の臓器に蓄積し,進行性の中枢神経症状を呈する。
近年,本症のようにライソゾームの障害により発症する疾患をひとまとめにライソゾーム病と称し,この名前で難病指定もされている。β-ガラクトシダーゼ欠損症(β-ガラクトシドーシス)は,GM1-ガングリオシドなどのβ-ガラクトース結合を加水分解する酵素(β-ガラクトシダーゼ)の遺伝的欠損による疾患で,中枢神経系症状を主とするGM1-ガングリオシドーシスと,神経症状がなく全身性骨系統疾患のモルキオB病に分類される。また,GM2-ガングリオシドーシスはGM2を加水分解する酵素(β-ヘキソサミニダーゼ)の遺伝的欠損による疾患で,原因遺伝子の違いによりテイ-サックス病,サンドホッフ病,GM2活性化蛋白質欠損症に分類される。これらの疾患は,主に残存する酵素活性の程度により発症時期と臨床症状が異なる乳児型,若年型,成人型などに分類される。基質合成を抑制(基質枯渇療法)する方法でガングリオシドの蓄積を軽減すると神経症状の一部が改善することが明らかになっており,ガングリオシドの蓄積が症状を引き起こす直接の原因である。しかし,この蓄積だけで病態のすべてを説明することはできない。近年,ライソゾーム病では,ライソゾーム以外の細胞内小器官にもガングリオシドが蓄積し,それが引き金となるシグナル伝達異常が明らかになり,それが神経障害の新たな原因として注目されている。
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