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1. ゲノム創薬科学の誕生
生命のプログラムともいえるヒトゲノムの全解読が,2003年4月に報告された。ヒトのみならず,100余種の生物のゲノムも解析されつつあり,ヒトを含む多数の生物種間での遺伝子配列の近縁関係が明らかにされる日も近い。得られている情報と科学は塩基配列というゲノム構造に関するもの(structural genomics)から,個々の遺伝子の機能に関する情報と科学(functional genomics)に質的・量的に確実に展開しており,現在ゲノム情報は驚異的な速度で蓄積しつつある。厖大な情報を前にして,それらを整理し,組織し,統合し,活用する科学,生物情報科学(bioinformatics)は必然であり,これらを総称してゲノム科学(genomics)と呼ばれる科学がすさまじいスピードで展開されつつある(図1)。ゲノム科学の応用は医療に大きく寄与することが期待されている。中でも医薬品を作り出す創薬が人類福祉への直接的還元としてその期待が大である。
創薬研究は先端的な科学と技術の融合の上に成り立っているため,歴史的にその時代の先端的な科学と技術によって,研究コンセプトや開発手法は大きく推移している。ゲノム創薬はゲノム情報とゲノムテクノロジーを駆使して治療標的を絞込み,新たな治療を創製する戦略である。創薬はこれまで一定の標的を定め,多数の化合物や天然物をスクリーニングすることで行われてきた。この創薬アプローチの経験から,優れた医薬品を発見するためには,まず標的自身が新しく,ユニークでなければならないことは自明である。これを可能にする創薬における画期的変化がゲノム科学を基盤にした標的の発見とそのダイナミックな活用であり,これがゲノム創薬研究プロセスである。ゲノム情報の蓄積によりゲノム科学を基盤とする科学としてのゲノム創薬科学が誕生した。中でもDNAチップ技術はゲノム創薬科学における重要な基盤技術の一つであり,今後のゲノム研究の焦点は,網羅的な転写単位の決定(トランスクリプトーム)を含めた遺伝子の高次機能解析であろう。
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