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Ⅰ.はじめに
看護理論は看護の現象の系統的な記述,説明,予測あるいは制御を目的とし,看護の現象を明らかにするための研究を促進し,実践を方向づけ,看護に必要な知識の体系化に寄与する.また看護理論にはおのずと看護学独自の発想や視点が反映されることから看護学の独自性を主張する際の依拠ともなる1,2).
今日わが国で看護理論と呼ばれているものは,そのほとんどが1950年代以降に米国で発表されたものの翻訳である.それらは理論というよりはむしろ著者自身の看護の理念の提示であることもあれば,看護について新しい概念と一貫した論理構造を提案する試みであることもある2).しかしながら米国においても看護理論の発展の歴史は浅く,とりわけわが国での本格的な理論構築の試みはきわめて少ない.学問領域における理論構築の重要性を考えれば,看護学の発展に向けてさまざまな理論化が試みられるとともに,それらがデータに基づいて検証され,改良されることが必要である.
このような背景のもと,筆者は新しい看護理論の構築をめざして,1974年に神経生理学者MaturanaとVarelaが構想した有機体論であるAutopoiesis Theory(自己創出理論)3~5)を導入し,看護の理論化を試みた6).本稿ではこの研究の第一段階として,看護場面を構成する重要な二人の人物(看護婦(士)と対象者)のうち,看護の中心である対象者(人間)に関して行った理論化のプロセスを報告する.
Autopoiesis Theoryは生物学領域の理論であるが,生命体を捉えるAutopoiesis Theoryの視点と,人間を捉える看護の視点の間には類似した点がいくつか見いだされる.AutopoiesisTheoryは生命体を外界からの働きかけによってのみ変化する受動的なシステムではなく,まずもって自らの生成過程を通じて変化する自律的なシステムと捉える.同様に看護では,人間が健康を回復,維持/増進する過程や成長・発達する過程は,本来対象者自身に内在している力により引き起こされると捉えられる7, 8).看護の場においてその中心は対象者であり,その関わりは対象者の内的な力を発揮させ,高めることにあると考えられている.
またAutopoiesis Theoryは環境条件によって生命体がどのように変化するかではなく,生命体がそれらの環境条件をどのように受けとめているかを理解しようとする視点をもつ4).同様に,看護の場においては対象者がどのような環境条件のもとにいるかや,どのような健康状態にあるかだけでなく,対象者自身がその環境条件や健康状態をどのように受けとめているかを重視する.つまり看護では対象者自身が体験している内的世界の把握が求められる9,10).
以上のAutopoiesis Theoryと看護学の視点の類似性から,Autopoiesis Theoryの看護学への導入は,対象者の自律性と自主性を尊重するとともに,健康や病気を体験している対象者個人の内的世界について知ろうとする看護の視点を反映する新しい看護学の概念と論理をもたらすものと考える.
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