特集 現代医学・生物学の仮説・学説2008
5.神経科学
長期増強
真鍋 俊也
1
Toshiya Manabe
1
1東京大学医科学研究所基礎医科学部門神経ネットワーク分野
pp.430-431
発行日 2008年10月15日
Published Date 2008/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100545
- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
海馬は場所や出来事・事実などの記憶の中枢であると考えられている。てんかんの治療目的で海馬を含む両側の内側側頭葉の切除手術を受けたヒトの場合には,古い記憶は問題なく思い出すことができるが,新しい長期的な記憶がほとんど形成できなくなる1)。しかし,小脳や線条体が関係するような運動に関する記憶や大脳皮質がおもに関係する記憶などはまったく正常であることがわかっており,海馬は外界からの情報や位置情報を記憶する際に必須の脳部位であるといえる。外界からの入力を長期的な記憶へと変換する際には,その情報はシナプスに何らかの形で蓄えられると考えられるが,海馬のシナプスにおいては活性化のパターンによってシナプス伝達効率が長期的に修飾される機構が存在し,それが記憶形成の基礎過程であろうと考えられている。本稿では,海馬におけるシナプス伝達の基本的事項をまず説明し,それに続いてシナプスの長期的な修飾の代表である長期増強(LTP)とその生理的意義について概説したい。
Copyright © 2008, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.