特集 現代医学・生物学の仮説・学説2008
1.細胞生物学
生体膜の曲率依存的な細胞内情報伝達機構
伊藤 俊樹
1
,
竹縄 忠臣
1
Toshiki Itoh
1
,
Tadaomi Takenawa
1
1神戸大学大学院医学研究科生化学・分子生物学講座
pp.370-371
発行日 2008年10月15日
Published Date 2008/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100519
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脂質を介した細胞内情報伝達機構は,1980年代の西塚,高井らによって成し遂げられたタンパクキナーゼC(PKC)の発見とその活性化機構の解明を端緒としている。すなわち,イノシトールリン脂質からホスホリパーゼCによって変換されたジアシルグリセロールがPKC分子を細胞膜へリクルートし,それを活性化することによって細胞外からの情報が細胞内へと伝達されていく。同様のスキームは,イノシトールリン脂質そのものに結合するPHドメインの発見によって,さらに多くの細胞内情報伝達経路においても見出されてきた。例えば,PI3-キナーゼの代表的なエフェクター分子であるAktタンパクキナーゼは,PI(3,4)P2あるいはPI(3,4,5)P3によって細胞膜へ移行し,細胞増殖,タンパク質合成,アポトーシス抑制など多くの細胞応答を引き起こす。
いずれにしても,これら活性化機序の本質的な意義は,シグナルの受け手となる分子(上記の例ではPKCやAkt)を細胞外情報の入り口である細胞膜へ「連れて来る」ことである。細胞質内に三次元的に分散して存在する場合に比べて,細胞膜上に二次元的に集積することで分子密度は約1000倍にも上昇し,分子間相互作用やそれに伴うリン酸化などの反応ははるかに効率的に行われる。長い間,このような反応の場である生体膜は基本的に限りなく平坦な構造が想定されてきたが,近年の細胞内小胞輸送研究の進展に伴って,生体膜が単なる平面ではなく多彩な曲面を有する立体的な情報を持ちうることが明らかになってきた。本稿ではこのような「平面」から「曲面」へのパラダイムシフトに伴う,生体膜からの新たな情報伝達機構の可能性について論じる。
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