Japanese
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特集 こころと脳:とらえがたいものを科学する
視覚の主観性を支える神経活動―両眼立体視を例に
Neural activity correlating to subjective visual experiences
藤田 一郎
1
Ichiro Fujita
1
1大阪大学大学院生命機能研究科認知脳科学研究室
pp.44-50
発行日 2006年2月15日
Published Date 2006/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100210
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つきつめれば,分子やイオンの動きや相互作用である神経細胞の中や神経細胞同士のできごとが,いったいどのようにして,私たちが知覚するさまざまな心のできごとを生み出すのか。この「心が脳からどのように生まれるか」という問題は,脳科学を専門とするもののみならず,多くの人の興味を強くひく問題である。しかし,物理化学現象から主観的知覚体験が生成される過程を,科学の言葉で説明する,理屈の通った仮説は存在しない。そもそも,この問いは解決可能な問題かどうかさえ自明ではない。定冠詞つきの“the hard problem”と呼ばれるゆえんである。では,この問題に対してわれわれは何もできないかといえばそうではない。現代科学における,この問題に対する現実的かつ堅実で,最も有望なアプローチは,心のできごとに「直接」関与すると想定される神経活動を同定し,その性質を明らかにすることである1)。脳の中で何百億もの細胞が活動しているにも拘わらず,そのような活動の中でわれわれの主観的意識にのぼってくるものはごく限られている。「脳の中のどの細胞がどのような条件下でわれわれの主観経験に貢献し,その活動は主観経験に直接に貢献をしない細胞の活動とは何が違うのか」この問題を追及する試みが,おもに視覚を対象とした研究においてなされている。その一般的解説は別文献2,3)に記した。本稿では,奥行き感の知覚を担う神経活動の探求に焦点をしぼり,考えていく。
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