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末梢組織に侵害刺激が加わると,その刺激は1次求心性線維によって脊髄後角へ伝達され,2次ニューロンとシナプスを形成し,上行性に脳へと伝達され「痛み」として認識される。痛覚は生体における侵害刺激に対する警告信号であり,侵害刺激の除去および末梢組織での傷害の治癒によって消失する。他方慢性疼痛は,末梢組織の傷害によって誘導された侵害的な痛みの一部に,伝達経路の修飾といった異なる新たな要因が加わることによって発症するもので,脊髄後角の中枢性感作によって維持されるものと考えられる。中枢性感作では,脊髄後角での反応性の増大および受容野の拡大が認められ,その発症機序としてワインドアップやシナプスの再構築および脱抑制といった可塑的変化が報告されている。
記憶・学習におけるシナプス可塑性の「場」は海馬であり,海馬を用いた多くの報告から,スパインの形態変化1,2),シナプス膜への機能性分子のトラフィッキングによる発現量変化3,4),そして翻訳後修飾に伴う機能変化5-9)からなるシナプス可塑性による伝達効率の変化が明らかにされている。シナプス可塑性には,興奮性が増大する長期増強(Long-term potentiation;LTP)と,低下する長期抑圧(Long-term depression;LTD)の二つの可塑性10)が知られている。最近,脊髄後角でも,後肢へのカプサイシン投与によって作製された炎症モデルでは,C線維への低頻度刺激によってLTPが誘導されることが報告され11),LTPが慢性疼痛の中枢性感作の一因であると考えられるようになった。さらに,慢性疼痛の一つである神経因性疼痛では,通常痛みを感じない触覚刺激が痛みとなるアロディニアや,痛覚閾値が顕著に低下する痛覚過敏が生じ,脊髄後角での反応様式の変化や興奮性が増大する可塑的変化が生じる12,13)ことからも,痛みにおける中枢性感作にはLTPと同様の現象が含まれているものと考えられる。
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