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CASE
患者:81歳、女性。
主訴:意識レベルの低下、身体の左への傾き。
患者背景:12年前にくも膜下出血を発症し、脳動脈瘤クリッピング術を施行された。術後、右前頭葉に出血を合併し、後遺症として症候性てんかんと左片麻痺が残存した。てんかんに対してはレベチラセタム1,000mg/日で、長期間発作は抑制されていた。ADLはもともと歩行器歩行レベルであったが、1年前に右大腿骨頸部骨折を受傷した以降は車椅子移動となっていた。ベースラインとして認知機能低下があり、簡単な意思疎通のみ可能であった。認知症の周辺症状に対して入院加療を受けていた。既往の左片麻痺の具体的な程度は不明であった。
現病歴:受診3日前から意識レベルの低下と座位で身体が左へ傾く傾向が出現した。受診当日には左半身の自発運動がほぼ見られなくなった。意識レベルの低下が進行性に認められたが、食事中に「おいしい」と発語するなど、意識レベルの変動を伴っていた。これらの症状に対する精査加療目的でA病院の救急外来を受診した。
既往歴:高血圧症、2型糖尿病、症候性てんかん、くも膜下出血(12年前)。大腸がん術後(8年前)、両側大腿骨頸部骨折(左3年前、右1年前)、認知症。
内服薬:レベチラセタム1,000mg/日、ブレクスピプラゾール2mg/日、メトホルミン500mg/日、ビルダグリプチン50mg/日、イミダフェナシン0.2mg/日。
生活歴:入院前ADL:食事は自立。日中はベッド上で過ごし介助で車椅子に移乗する。要介護3。
来院時一般身体所見:General appearance : not so bad。
バイタルサイン:体温36.9℃、血圧164/85mmHg、脈拍数100回/分(整)、呼吸数18回/分、SpO2 98%(room air)。
意識レベル:JCS Ⅰ-3、GCS E4V3M5-6。明らかな舌咬傷や口腔内出血なし。眼瞼結膜蒼白なし、眼球結膜黄染なし。心音は整で雑音なし。肺音 清。下腿浮腫なし。腹部は平坦、軟で腸蠕動音に亢進・減弱なし。皮膚に特記所見なし。オムツ内排尿あり。
神経所見(ERでの限られた記載):時に左共同偏視あり、左半側空間無視あり。意思疎通困難のため、詳細な高次脳機能評価や麻痺の定量的評価は困難。右上肢の指示動作は可能だが、左空間では拙劣となる。左上肢は自発運動なく、痛み刺激に払い除け様の動きを認めるのみ。
来院時検査所見:
血液所見:WBC 8,800/μL、RBC 385×104/μL、Hb 10.9g/dL、Plt 29.2×104/μL。
血液生化学所見:TP 8.0g/dL、Alb 4.4g/dL、T-Bil 0.4mg/dL、BUN 18.0mg/dL、Cr 0.63mg/dL、Na 126mEq/L、K 4.7mEq/L、Cl 90mEq/、Ca 9.4mg/dL、Glu 211mg/dL、HbA1c 7.4%。
免疫血清学所見:CRP 0.59mg/dL。
動脈血ガス:pH 7.426、pCO2 39.2mmHg、Lac 2.9mmol/L。
心電図:洞調律で特記所見なし。
頭部MRI所見(図1):右頭頂葉と側頭葉、後頭葉の皮質に沿った線状・帯状のDWI(拡散強調画像)高信号を認める。これらの病変は特定の血管支配域に一致しなかった。MRAでは、明らかな主幹動脈の閉塞や血管径の左右差は認めなかった。

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