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症例
患者:80歳、男性。
主訴:食思不振。
現病歴:下記の既往症に対して、当院の内科外来に通院している。20XX年11月Y-4日より食思不振を自覚していた。腹痛・嘔吐・下痢といった消化器症状は認めなかったが、改善がないため、11月Y日に当院の救急外来を受診した。
既往歴:心房粗動(ベラパミル塩酸塩錠の内服により洞調律化している。20XX年7月の定期外来受診時に実施した安静時12誘導心電図所見を図1に示す)、下肢閉塞性動脈硬化症、胃腺腫、大腸ポリープ。
飲酒・喫煙歴:喫煙は20本/日を20歳から。飲酒は日本酒2〜3合/日。
内服薬:ニコランジル錠5mg 2錠/日(1回1錠・朝夕食後)、ピタバスタチン1mg 1錠/日(夕食後)、アムロジピン2.5mg 1錠/日(夕食後)、アジルサルタン・アムロジピン2.5 mg配合錠1錠/日(朝食後)、フェブキソスタット10mg 1錠/日(朝食後)、ボノプラザンフマル酸塩10mg 1錠/日(朝食後)、メコバラミン0.5mg 3錠/日(1回1錠・毎食後)、ベラパミル塩酸塩錠40mg 3錠/日(1回1錠・毎食後)、エドキサバン30mg 1錠/日(朝食後)、イコサペント酸エチル粒状カプセル900mg 2包/日(1回1包・朝夕食後)
アレルギー歴:なし。
入院時現症:GCS E4V5M6、体温36.6℃、血圧150/48mmHg、脈拍数50回/分、SpO2 98%(室内気)。眼瞼結膜貧血なし、眼球結膜黄染なし。肺音 清、心音 純。腹部 平坦軟、腸蠕動音正常、圧痛なし。両側下腿浮腫は認めない。
入院時安静時12誘導心電図所見(図2):脈拍数44回/分、房室接合部調律を認め、Ⅱ・Ⅲ・aVF・V3-V6誘導に陰性T波を認めた。
入院時画像所見:胸部単純X線検査では心拡大や肺炎像を認めず、腹部-骨盤部単純CT画像検査では腹腔内臓器に異常な所見を認めなかった。
経過:心電図で房室接合部調律を認めたため、循環器内科医師にコンサルトし、心臓超音波検査を実施したが、左室駆出率は目視で60%程度であり、明らかな弁膜症や壁運動異常を認めなかった。検査部より血清カリウム(K)が6.9mmol/Lとパニック値であると報告を受け、尿素窒素(BUN)31.9mg/dL、クレアチニン(Cr)1.37mg/dLとBUN/Cr比の乖離があり、1カ月前の検査所見(BUN 20.1mg/dL、Cr 1.06mg/dL)よりも腎機能の悪化を認めた。クレアチンキナーゼ(CK)63U/Lと横紋筋融解は認めなかった。サプリメントや漢方薬、特定のK含有量の多い食品の過剰摂取歴はなかった。経口摂取量が低下していたことで、脱水症により発症した高K血症に起因する房室接合部調律と診断。救急外来で、心電図モニターを装着のうえ、グルコン酸カルシウム注射液8.5% 10mLを緩徐に静脈注射、グルコース/インスリン療法として50%ブドウ糖液50mLにレギュラーインスリン5単位を混合注射、同様に緩徐に静脈注射し、入院とした。30分後に実施した血液検査で、K 5.0mmol/Lと正常範囲内に改善し、心電図モニター上、洞調律に復帰した。第2病日に実施した血液検査では、K 5.0mmol/Lと高K血症を認めず、第5病日に安静時12誘導心電図を実施し、洞調律であることを確認した(図3)。食欲不振に対する精査として上部消化管内視鏡検査を実施し、バレット食道を認め、腹部超音波検査では脂肪肝を認めるのみであり、食思不振の原因となりうる所見は指摘されなかった。すでに食思不振は改善していたため、退院後に外来でフォローアップする方針とし、第17病日に自宅退院した。退院後も定期的に外来受診し、食思不振を認めていないため、経過観察している。

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