特別記事
介護職とにおい—語られずにきたものを語る
金井 聡
1
1一橋大学大学院社会学研究科博士課程
pp.488-495
発行日 2019年9月15日
Published Date 2019/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689200663
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身近でありながら語られないもの
介護や看護をはじめとするケアの仕事は、人間の生(ライフ)に密接にかかわるものであり、においを切り離して考えることはできない。人間が有機物である以上、そこには必ず何らかのにおいが生じる。例えばおむつ交換、トイレ介助、痰の吸引、ベッドや衣服に染み付いた体臭、さらにはそれらが病棟や施設のアルコール消毒剤とまざった独特なにおい。これらに対して、一度も不快な感情を抱いたことはないという人はどれだけいるであろうか。
対人支援に職業として携わる人には、利用者の安全確保だけでなくより良い支援のためにも、職業上の倫理規範が求められる。そこでは支援者は、自分自身の感情をコントロールしながら、それぞれの規範にしたがってサービスを提供することになる。こうした仕事は「感情労働」と呼ばれ、「自分の感情を誘発したり抑圧したりしながら、相手の中に適切な精神状態を作り出すために、自分の外見を維持しなければならない」*1ものと定義されている。
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