連載 武井麻子のOh!それみ〜よ・7
吉本ばなな著『おとなになるってどんなこと?』吉本隆明著『フランシス子へ』—父と娘、母と娘の関係を考える
武井 麻子
1
1日本赤十字看護大学
pp.492-495
発行日 2016年9月15日
Published Date 2016/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689200275
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若き日の吉本隆明との出会いと変心
半世紀近く前の話になるが、東京大学に入学してまもなく、教養学部で学生ストライキが始まったおかげで、私は苦痛きわまりなかった授業から解放され、これまで手に取ったこともないような本にいろいろと出合うようになった。それまで遠い世界のことだと思っていた哲学や文学についての熱のこもった議論に、一気に目を開かされた思いがしたのを覚えている。理論物理学者のシュレディンガーが、晩年、分子生物学へと転じ、人間の意識の解明に取り組んでいたことを知って驚いたのもその頃だった。私は物理や化学を目指していて、生物学を一段下に見ていたのだ。なんたる無知だったことか。
そんな時、クラスの男の子がボロボロになった小さな本を貸してくれた。吉本隆明(当時は皆「よしもとりゅうめい」と呼んでいた)の『初期ノート』だった。当時、詩人であり、思想家でもあった吉本隆明は、初めて社会に目覚め、背伸びを始めた学生たちの間でちょっとしたカリスマになっていた。
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