書評
「日本近現代 医学人名事典【1868-2011】」
鈴木 晃仁
1
1慶應義塾大学・医学史
pp.72
発行日 2013年5月15日
Published Date 2013/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689101181
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「歴史もの」がプレゼンスを示した2012年、味わい深い事典が刊行
2012年の日本の医学界を振り返ると、山中伸弥教授のノーベル賞受賞という最先端の研究と並んで、「歴史もの」が確かなプレゼンスを示すようになった1年であった。「医学史」の研究はもちろん以前からおこなわれており、優れた書物も出版されていたが、過去からの蓄積と新刊された書物が相まって、ある〈まとまり〉のようなものを示すようになった。医学と医療の現在性、未来志向性と並んで、それが持つ長い歴史が確かな存在感を持つようになったのである。
医学書院から昨年発行された書籍をみても、金川英雄が翻訳し解説を付した呉秀三・樫田五郎『精神病者私宅監置の実況』はベストセラー並みの扱いであるが、これは今から100年ほど前に発行された論文を現代の医療関係者にも無理なく読めるように現代語訳したものである。木村哲也『駐在保健婦の時代 1942-1997』は、激動の戦中から戦後・高度成長期に形成された日本人の健康と日常を、高知県の保健婦の現代史を通じて生き生きと復活させた著作である。翻訳ものでは、ウィリアム・バイナムとヘレン・バイナムの『Medicine 医学を変えた70の発見』は、私も共訳者の1人であるが、医学史の専門家だけでなく多くの人々に訴えるインパクトがある図版を300点以上も掲載したヴィジュアル医学史の決定版である。
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