本を読むとき
『臨床で書く 精神科看護のエスノグラフィー』
大西 香代子
1
1三重大学医学部看護学科
pp.127
発行日 2008年5月15日
Published Date 2008/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100516
- 有料閲覧
- 文献概要
よみがえる記憶―あの患者たちのこと
「時間が経たないんだよ。それで、タバコをすうと、タバコが短くなった分だけ、時間が過ぎ去ったことが見えるんだ」。
それは、「どうしてそんなにタバコばかりすっているの?」という無邪気にして残酷な質問に対する答えだった。私は看護師になったばかりで、彼は私の初めての受け持ち患者だった。散歩をしながらそんな会話をして1時間も経たないうちに、彼は無断離院した。翌日、車で2時間ほどかかる彼の自宅に先輩の看護師と彼を迎えに行ったことを思い出す。新人の私には、彼がそのときどうしようもない焦燥感に苦しんでいたことがわからなかった。
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.