連載 下実上虚・14
とにかく忙しい!
西川 勝
1
1大阪大学コミュニケーションデザイン・センター
pp.86-87
発行日 2007年7月15日
Published Date 2007/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100425
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- 文献概要
ある看護師のため息
とにかく忙しい!
忙しいのは患者さんのケアに、じゃない。ここ数年、会議に時間をとられ、書類関係、監査関係、お金関係の仕事にふりまわされることが増えてきた。何かがおかしいと思うんだけど、忙しい循環から抜け出る方法がわからない。
本当にお気の毒な話です。書類仕事や会議が好きで看護師になった人はいない。なのに、気がついたらパソコンの前でしかめ面している自分がいる。早く仕上げてしまいたいこの仕事。どんな顔でキーボードを叩いても、パソコンは文句を言わない。ウーンとうなって、考えを集中する。そこに、予告なしのナースコールだ。「ああ、忙しいのに、まったく」舌打ちしそうになりながら椅子を立つ。声色を変えて「どうなさいました」と応える。申し訳なさそうに看護師を呼ぶ患者さんの病室に、小走りで向かう足が微かに苛立っている。ああ、好きだったはずの仕事まで面倒になっている。決してサボりたいわけではない。なのに、真面目に仕事をすればするほど、なんだか空しくなっていく。「仕事はできる人間に集まってくる」って言うけれど、ちょっと勘弁してもらいたい。でも、自分が引き受けたんだから仕方ないんだ。職場で上司や同僚から、「あなた、暇そうね」なんて声かけられたら立場がないからね。もう頼む隙を人に見せないぐらい忙しいことが、職場で人目を気にせずに安心して仕事する秘訣だろう。患者さんだって、看護師は忙しいものだと決めている。変な話だが、暇そうな病院は患者さんから見捨てられて、忙しそうに繁盛している病院に患者さんが集まる。看護師も忙しそうな人が有能に見える。
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