特集2 どうやってもうまくいかなかった「境界例」
「巻き込まれる」私の個人的原因論
伊藤 健太郎
1
1東京医科大学精神科
pp.85-89
発行日 2004年11月1日
Published Date 2004/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100340
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「不遜」な来客?
高校3年生の女子。診断は境界性人格障害。いつものように母親とともに病院へ到着し,診察の順番を待つ。私はその間に起こっている事態など知る由もなかった。順番があと数人というところで,彼女はひとり外へ出た。順番が訪れ,母親が本人を探すも全く見当たらない。「すいません,娘がいなくなってしまって……携帯も出ないんです」と母親。外は雨が降りしきっている。「おそらく時間からしてそんな遠くには行っていないでしょう。お父様に連絡して心当たりのある場所を探していただけますか? お母様は自宅で待っていてください。電話があるかもしれません」と私。しかしその時点で,おそらく電話は病院にかかってくると私は確信していた。
1時間後,予想通り彼女から電話がかかってきた。「先生,あたし今どーこだ?」「診察の順番来たよ。早く戻ってきなさいな。どこにいるの?」「言わない」「今,お父さんがあなたを探しまわっているよ」「絶対にわからないよ」「そうか。じゃあ自分で戻ってきてよ。雨降ってるし,風邪引いたらどうすんの?」「先生の携番教えてくれたら戻る」「それはできないよ」そんなやり取りが続き,電話は切られた。
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