―カゾクヲコエテ―超・家族・9
「しぶしぶ同居」と「やむなく別居」のあいだで
上野 千鶴子
1
1東京大学大学院
pp.742-743
発行日 2000年9月15日
Published Date 2000/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688902409
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介護保険が始まって3か月余が経過した.制度構築のねらいどおり,要介護度が中程度の高齢者をかかえる中産階級の介護世代にとっては,介護負担はあきらかに軽減されている.軽度の要介護者や認定外の高齢者,そして重度の要介護者の両極と,低所得層にしわよせが来ているのも,予測されたとおりである.本当はこういう制度のひずみを保険事業の主体である各自治体が,弾力的な政策でうまく吸収してくれれば,住民の不安や不満はそうとう軽くなったはずだ.それを前提とした上で,それでも「措置から契約へ」「恩恵から権利へ」という福祉の概念の転換は,大きな変化だった,と言いたい.
これまで日本型福祉と言われるものは,家族を含み資産として基本的には自助努力に依存してきた.そのツケを支払ったのは,家族の中の女性である.他方,自助能力を欠いた人々に対しては公的な措置制度がとられてきた.だから公的福祉を受けることは自助能力のない証となり,福祉は恩恵であり,それを受けることは恥,という意識を生んできた.
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