―カゾクヲコエテ―超・家族・11
「どうしてほしいの?」―家事と介護のあいだ
上野 千鶴子
1
1東京大学大学院
pp.918-919
発行日 2000年11月15日
Published Date 2000/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688902095
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介護現場に関わっている人ならだれでも言うことだが,介護保険で家事援助と身体介護のあいだに大きな利用料金の格差がついていることには,現場の感覚からいって納得できない.身体介護は1時間4020円.かたや家事支援は1530円.差が大きいだけでなく,家事サービスの価格設定が低すぎる.どたんばで折衷型なんていうあいまいなカテゴリーができたが,これが2780円.居宅支援事業者の大手が早々と撤退を決めたのも,利用者の需要が低料金サービスに集中して事業高の見込みがはずれたから,という.
労働の価格はどうやって決まるか?アメリカの同一価値労働同一賃金の原則のもとでは,労働の強度と熟練度,そして専門性と資格が基準となる.労働強度からいって,家事支援は身体介護に比べて決して軽くない.それどころか短時間のうちに掃除から洗濯,炊事までをこなしてもらおうと利用者は待ちかまえているから,洗濯機を回しながら掃除機をかけ,そのあいだに煮物をし……みたいに集中力と気配りが要求される.「午前中2時間の家事支援でぐったり」というヘルパーさんの実感はよくわかる.他方,身体介護は,お年寄りのペースにあわせて動くから,時間をかけてゆっくり排泄支援や入浴介助をするのが精一杯.あっというまに時間切れになってしまう.
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