生命輝かせて―臨床医としての真髄を求めて・11(第1部終わり)
生きていてよかった
有働 尚子
1
1VITA臨床生命学研究所
pp.995-998
発行日 1999年12月15日
Published Date 1999/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688901932
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報われた努力
共同研究者から借りていた貴重な研究データ入りのバッグの盗難事件(第10回)以来,私のこの研究に対する興味は日毎に強くなっていった.Dr. Davousからのアルツハイマー病の患者さんの高次機能テストをこなすかたわら,この疾患の対照群としてパーキンソン病患者群の検査をするようにと依頼された.このためサンタンヌ病院でRon-dot教授に次いで,パーキンソン病専門家の第一人者である医師とコンタクトをとることになり,彼のパーキンソン病患者を紹介してもらうことになった.ここでも,一言も言葉を交わすことなく病棟で働いていた私がフランス語を話すようになり,透明人間であった〈NAOKO〉が,彼の前に突如人間として存在することになった状況が,この医師の表情の驚きの中に読みとれた.
「君がパーキンソン病患者さんの知的機能を検査するのですか?」と驚きと怪訝な表情を顔に現しながら,質問された.この医師はパーキンソン病患者の症状で運動機能には興味を持たれていたものの,痴呆や妄想・幻覚といった精神症状には全く興味がない方で,一体何が面白くてDr. Davousの研究の手伝いをしたいのか,と言わんばかりの対応であったが,数名の患者の名前を挙げられた.
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