音楽でホッとひと息―現代人に贈る癒しの音楽
―ルイ・クープラン―組曲とパヴァーヌ
竹重 敦
pp.598
発行日 1997年8月15日
Published Date 1997/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688901704
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前回,人の心を癒す楽器として古楽器のリュートを紹介したが,今回はチェンバロを取り上げたい.チェンバロはドイツ語名で,英語ではハープシコード,フランス語ではクラヴサンという.この楽器こそバロック音楽を彩る様々な古楽器の中でも女王と呼ばれるのがふさわしい,正に古楽器を代表する楽器である.今日の古楽の隆盛の中で忘れ去られた楽器が次々と発堀された中でも,チェンバロ程華々しく蘇った楽器はないと言っていい.息を飲む美しさというのはこの楽器のためにある表現である.鈴の音を連ねたような類稀な音色と響きの美しさには,ほとほと聴き惚れ,只々溜息をつくしかない.
チェンバロのために曲を作った作曲家の最高峰は言うまでもなく大バッハである.彼を筆頭にフランソワ・クープラン,ラモー,ドメニコ・スカルラッティなど,バロック音楽を代表する大家がたちまち居並ぶ.しかし,私がここで紹介したいのは,小粒ではあるがクラヴサンのために最高の珠玉作品を残したルイ・クープランである.彼はあの有名なフランソワ・クープランの伯父にあたり,35年という短い生涯を只ひたすらクラヴサンのために捧げた.残された作品数こそ少ないが,その質の高さ,芸術的完成度はフランソワに優るとも劣らない.近年,彼の再評価が顕著で,漸く彼の全貌とかけがえのない魅力が広く知られるようになってきた.
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