音楽でホッとひと息―現代人に贈る癒しの音楽
―スラヴァ―「アヴェ・マリア」/「ヴォカリーズ」
竹重 敦
pp.445
発行日 1997年6月15日
Published Date 1997/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688901677
- 有料閲覧
- 文献概要
前回に引き続きカウンターテナーを取り上げる.カウンターテナーの音素材としての美しさは前回紹介の米良美一に尽るのではないかというのが私の正直な感想である.実は最近,この夏公開の宮崎駿の新作アニメーション映画「もののけ姫」の主題歌を米良美一が歌うと知り,「さすがは宮崎駿」と唸ってしまった.彼が偶然聞いたラジオから流れる歌声に,「これが男の声?」と―挙にひきつけられ,「この歌手に歌ってもらえたら」と当初挿入歌の予定がなかったものを変更し,宮崎自身が作詞したという.ちょっと耳にしただけで,待望の5年越しの新作映画の主題歌に取り上げてしまうあたり,「真に価値のあるもの」を見分けられ,聴き分けられる人はさすがに違う,この夏は米良の人の心を幸せにする類稀な美しい歌声が日本中に満ち溢れる.今から楽しみでならない.
このカウンターテナーが近年驚くばかりのブームとなっていることは前回書いた通りだが,これには1枚のCDの果たした役割が大きい.そのCDがこのスラヴァによる「アヴェ・マリア」である.これはクラシック界に限らず広く音楽界に少なからぬ衝撃を与えた.男性がこんな声で歌えるのか,そんな物珍しさで聴いていた人たちもやがてその声の無垢な美しさに魂を奪われ,不思議な位に心の中に安らぎと幸福感が満ち溢れてくることを思い知らされたのである.
Copyright © 1997, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.