連載 介護することば 介護するからだ 細馬先生の観察日記・第51回
ハウス・ルール
細馬 宏通
1
1滋賀県立大学人間文化学部
pp.860-861
発行日 2015年10月15日
Published Date 2015/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688200305
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暗黙のルール
新しい施設を訪問すると、そこが暗黙のルールに充ち満ちていることを感じて、自分がどう動いたらいいのか迷うことがある。
たとえば、とあるデイケアセンターに行き、利用者の人と雑談をしていると、「はい、じゃあいつものビデオ流しますねー」と言って職員さんがテレビのスイッチを入れ、口腔ケア体操のビデオが再生される。周りを見ると利用者の人たちは皆、画面の中のインストラクターが、口を開け閉めするのに合わせて自分の口を動かし始める。そうか、この施設では、食事の直前の時間が口腔ケア体操の時間なのだな。ところで、訪問者の私はこの体操をやるべきかどうか。部屋の隅にいるならともかく、今は、ついさっきまで雑談していたおじいさんのそばにいて、しかもその相手はビデオに見入って口を動かしている。これは、私も並んで体操するしかないではないか。というわけで、ほっぺたに舌をあてたり、口をもごもごさせて、口腔ケアのおつきあいをする。隣のおじいさんが気さくに話しかけてくる。「先生も口の調子悪いんでっか?」
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