連載 介護することば 介護するからだ 細馬先生の観察日記・第20回
舞踏への勧誘
細馬 宏通
1
1滋賀県立大学人間文化学部
pp.242-243
発行日 2013年3月15日
Published Date 2013/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688102458
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奈良の特別養護老人ホームで、舞踊家の佐久間新さんがダンスのワークショップをやっているのを観察させていただいたことがある。佐久間さんの踊りはジャワ舞踊が基本だが、その振りは自在で、突然ふってわいた音楽に合わせながら、その場にいる人をあっという間に巻き込んでしまう。この日は、ホームに入居されている20人ほどのお年寄りがぐるりと輪になって、その輪の中心で佐久間さんが手を叩いたり体をのばしたりと、しばらく簡単な運動をやって見せるところから始まった。お年寄りと佐久間さんとは、初対面だ。
体が温まったところで、佐久間さんは、ぐるりとあたりを見回してから、1人のお年寄りに無言で近寄って手を差し伸べる。その人はきょとんとしてから隣の人を見る。すると、佐久間さんはそっと離れて、また別の人に近づく。今度の人は、猛烈に手を横に振って断る。手が差し伸べられるのだから、何かへの誘いなのである。しかし、誘われたあと、何が起こるのかはわからない。佐久間さんの動きはとても静かだけれど、みなさんの視線は明らかに佐久間さんに釘づけになっている。おそらく、次は自分が誘われるのではないかという緊張が、そうさせるのだろう。
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