連載 介護することば 介護するからだ 細馬先生の観察日記・第6回
話す身体と聞く身体
細馬 宏通
1
1滋賀県立大学人間文化学部
pp.72-73
発行日 2012年1月15日
Published Date 2012/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688102092
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- 文献概要
会話をする力は、認知症を考えるときの大きな手がかりである。たとえば、認知症をスクリーニングする検査としてよく使われるものに、N式老年者用精神状態尺度(NMスケール)がある。これは介護者や身近な人が、日頃のお年寄りの様子を観察して点数をつけていく尺度なのだが、そのなかに「会話」の項目がある。介護者は、呼びかけに反応するか、話し方がなめらかか、話のつじつまが合わないことがあるかどうか、といったことをもとに点数をつける。
NMスケールは観察に基づく検査だけれど、診断や検査の多くは、質問に答えてもらう方法をとる。たとえば認知症検査でよく用いられる改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)では、「お年は?」「ここはどこ?」といった質問をして、それに答えてもらう。「お年は?」という質問に答えるには、ただ自分の年がわかるだけでは足りない。質問の意味を理解し、次は自分が答える番だということに気づき、自分の年を相手にわかるようなことばで声にしなければならない。このように認知症の検査では、単に記憶力だけでなく、直接間接に会話をする力が評価されている。
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