特集 口腔ケア 在宅でここまでできる
口から食べることの素晴らしさ―地域の口腔ケアを実践して
五島 朋幸
1
1ふれあい歯科ごとう
pp.908-911
発行日 2009年11月15日
Published Date 2009/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101461
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私は,東京都新宿区を中心に訪問歯科診療,そして訪問口腔ケアという立場で在宅ケアをサポートしています。そのなかで,いつも大切にしていることがあります。それは,歯(ないしは義歯)を治すことを目標とするのではなく,その方の生活を支えるという姿勢をとるということです。診療室を飛び出し,その方の生活に触れることによりこれまで気づかなかった歯科の可能性も感じられるようになりました。
脳梗塞で右半身麻痺の男性がいました。胃ろうで栄養摂取し,ベッドから動けない状態でした。数か月前に入院した時,看護師に総入れ歯を外されてしまい,どこにあるかもわからない状態です。そんなある日,一念発起して義歯を作ってほしいと本人から依頼があり,訪問診療で製作しました。上下の総義歯を装着し,最初に要求したのは堅焼きせんべい。周囲が心配するなか,大きな塊をほおばり,「ゴリッ」というせんべいの割れる音が口のなかからもれると同時に,これまで見たこともないような満面の笑み。「俺はこれが食いたかったんだ」と笑顔で語りました。
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