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はじめに
認知症は,脳に生じた病変(病気)によって神経細胞ネットワークが壊れて,わかる力(認知機能:中核症状)が低下し,自分のあたりまえの暮らしが困難になった状態といえるが,原因となる病気には,アルツハイマー型認知症,脳血管性認知症,レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症などがあって,それぞれの特徴がある。
臨床をしていると,本人と家族とで,悩みの主題が異なるように感じる。すなわち,認知症である本人は,これまでわかっていたりできたりしていたことが,わからなくなったりできなくなったりすることに悩み,ご家族は,妄想や幻覚,徘徊,興奮,夜間不眠といった,いわゆる周辺症状といわれているものの出現に振り回され,悩むことが多い。
この中核症状と周辺症状の関係は,以前から図1のようにまとめられていた。しかし,家族の側からすると,悩みの中心はむしろ周辺症状のほうにあり,その存在が在宅生活の継続の鍵を握る。したがって最近私は周辺症状とは言わず,BPSDという表現を多用している。
BPSDは,Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略で「認知症の行動と心理症状」と邦訳されるが1),この概念が提唱されて10年以上が経ち,今では,欧米はもとより,日本の専門家の間でも略語のBPSDで通用するようになっている。このBPSDを認知症の経過中に認める頻度は60~80%といわれ,きわめて高い。またBPSDは,図22)のように,認知機能の低下や,本人の性格,それを取り巻く環境等から二次的に派生するというように考えられ,BPSDに対しての非薬物的アプローチの根拠ともなっている。
しかしBPSDの中には,認知症の原因疾患に特有なもの(レビー小体病の幻視や前頭側頭葉変性症の常同行動など)もあって,「二次的に……」という考え方が通用しないものもあり,それらにはきわめて医療的なアプローチ(薬物治療)が必要とされる場合もある。つまりBPSDは「医療とケアの接点」ともいうべき位置にあり,それはいわゆる多職種協働(チームアプローチ)の場ともいえる。
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