連載 ほんとの出会い・22
女の詩を歌声にのせて
岡田 真紀
pp.55
発行日 2008年1月15日
Published Date 2008/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688100989
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女性が歌うコンサートにたまたま三回続いて行った。どなたもクラシックではない。川口京子さんは早稲田大学の文学部出身で自らを「歌唄い」と称されている。当日は中山晋平生誕120周年にちなみ,野口雨情詞の「シャボン玉」や北原白秋詞の「さすらいの唄」など懐しい歌が次々と。童謡が川口さんの手ならず喉にかかると,その奥行きの深さに驚かされることになる。それは言葉をとても大事にしているから。「逢いたい」という曲など,ただ一言「逢いたい」という言葉が72回繰り返されるだけ。けれども1つひとつの「逢いたい」がすべて違った表情をしている。それほどに川口さんの感情と表現は繊細で豊かなのだ。
そして,次が李政美(イジョンミ)さん。李さんは金子みすゞの「わたしと小鳥とすずと」や中原中也の「湖上」など日本人の詩にご自分で曲をつけられ,のびやかな声で歌い上げる。それと同時に,朝鮮半島各地に伝わるさまざまな「アリラン」を朝鮮民族独特のうねりのあるリズム感と弓がうなるようなこぶしでダイナミックに歌う。わたしが大好きになったのは「波にのまれて沈まないように 希望の歌 うたいながら さあ,舟を漕ぎ出そう」という李さん作詞作曲の「オギヤディヤ」。在日2世としての人生は,決して順風満帆ではないけれど,暗くうちしずむのではなく,歌う姿勢そのままに胸を張って前向きのエネルギーを聴く人の心に届けてくれる。
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