連載 ほんとの出会い・24
語れない言葉をメモにのせて
岡田 真紀
pp.227
発行日 2008年3月15日
Published Date 2008/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101034
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テーブルのうえに子どもへのメモを置いておくことがよくある。「今日はレストランの取材で千葉に行ってきます。冷蔵庫にサラダあり。ドレッシングをかけて召し上がれ。帰りは8時ごろ。お風呂洗いお願いします」というように。「ごめんね,昨日の夜は怒りすぎて。でもね,お母さんはあなたが自立して暮らすときに困らないように,今のうちにお金の使い方を注意しておきたいの」と,前夜娘にぶつけてしまった険しい感情をやわらげたくて,口には出せない優しい言葉をメモに託すときもある。
子どものころは母親にあてて手紙を書き,寝る前にちゃぶ台にそっと置いた。それは叱られたとき。母は一度怒るとなかなか口をきいてくれなかった。その不機嫌な顔に向けて,「ごめんなさい」という言葉をかけるだけの力もなかった。そして「お母さま,すみませんでした」と手紙を書く。ほんとうは自分が悪いと思っていなくても,それでも仲直りがしたくて……。
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