連載 わが憧れの老い・14【最終回】
障害の中,自分も他者をもいとおしんで生きる老い
服部 祥子
1
1大阪人間科学大学
pp.1046-1049
発行日 2007年12月15日
Published Date 2007/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688100972
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ある日突然に―不断の苦しみを受け容れる
世界的な免疫学者である多田富雄さん(1934~)は,突然の脳梗塞の発作後一夜にして声を失い,右半身が麻痺してしまった。赫々(かくかく)たる業績をもって内外に知られる医学者であり,詩人・エッセイストとして数々の賞を手にした文学者,新作能の作者としても知られ,自らも大倉流の小鼓を打ち,玄人でもそんな音は出ないといわれるほど美しい音を出す芸術家……。多田さんのたくさんの顔が彩(いろど)ってきた華やかで豊かな人生は,たった一回の発作で地獄の底に投げ出された。
2001年5月,多田さんは旅行先の金沢で異変に気付き急遽入院する。左中大脳動脈の塞栓による脳梗塞であった。死線をさまよい,生還した時には言葉を一語も話すことができず,右半身は動かなくなっていた。意識は清明だったのでMRI(核磁気共鳴装置)の検査の時のポカンポカン,ポヤポヤポヤ,ジーコジーコ,ガーガーというすさまじい騒音の中で心身がもみくちゃにされ,へとへとになっていくさまを一部始終察知し,記憶も確かで九九算を次々にそらんじてみてこれもOK。幸運にも多田さんの知的機能は,知覚,意識,記憶,思考等すべてが無傷で障害を免れた。
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