連載 わたしのことをわたしから・8
難聴者への贈り物
柴谷 晋
pp.688-689
発行日 2007年8月15日
Published Date 2007/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688100895
- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
『体の贈り物』という小説をご存知でしょうか。アメリカの現代作家,レベッカ・ブラウンの作品です。主人公はホームケアワーカーの女性。彼女はエイズ患者の世話をしています。この作品は,作者自身の体験をもとに,介護する側とされる側,与える者と与えられる者の関係を冷静に描いています。
私はこの作品を読み返す度に,不思議な感覚を覚えます。その引き締まった文章は感動的ですが,涙を誘う感動ではありません。心を奪われるエピソードが幾つも登場しますが,心温まるお話ばかりではありません。
死に直面する患者に対し,介護人は安易に言葉を掛けられません。その代わりに,行動や体で自分の思いを伝えようとする。両者の関係は,優しくて厳しい。そして厳しくて優しい。そんな小説です。
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.