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はじめに
1993年に老人訪問看護制度が創設され,第1号の訪問看護ステーションが開設されてから10年が過ぎた。全国の訪問看護ステーション設置数は目標の5000か所に達したが,当初私たちが目指したものが実現できているのだろうか? また,新たに創設された介護保険制度と医療保険の狭間で,訪問看護ステーション本来の存在意義を見失いつつあるのではないか? という危機感を感じている。
厚生労働省の「新たな看護のあり方に関する検討会」では,これまで医師の領域とされた静脈注射が看護師に解禁され,訪問看護指示書が包括的指示になるという状況変化のなか,看護師の裁量権が広がったようにも思われる。一方,3年間の暫定措置とはいいながらも,ALS患者のたんの吸引が実質上家族以外の者にも認められるという事態は,私たち看護職の職域に関わる問題であり,存在意義を問われる重要な岐路にきているといえよう。
にもかかわらず,昨年度の医療報酬改定で訪問看護費は据え置き,今年4月の介護報酬改定では緊急時訪問看護加算が減算され,経営難に苦しんでいる訪問看護ステーションが増えた。慢性的な人手不足のなか,介護支援専門員(ケアマネジャー)との兼務という新たな業務も加わり,管理者さえも毎日の訪問に追われ,事業所の状態を振り返ることもできないまま,あくせくと働かなくては事業経営が維持できない。このような状況下,看護の質を上げようにも,裁量権を発揮しようにも,立ちゆかない現状があるのは事実である。
現在私は,医療法人立の在宅サービス部門8事業所を管理している。訪問看護ステーション3か所,ヘルパーステーション1か所,居宅介護支援事業所2か所,在宅介護支援センター1か所,そしてこの4月から福祉用具貸与事業を始めた。各事業が介護保険という理不尽な制度のもと,それぞれの課題を抱えながらも,世のため人のため,そして地域で暮らす高齢者のためによりよいサービスを提供できるよう,日々努力を重ねている。
そのなかでも今回は,私自身の原点である“訪問看護ステーション”について,現在の課題と今後の方向性に関する意見を述べたいと思う。
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