連載 続・白衣のポケット・10
Tell your name
志水 夕里
pp.826
発行日 2001年10月10日
Published Date 2001/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686901321
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ある日,ホームレスの男性が入院してきた。朝から路上で倒れていたところ,夜になって,近所の人が警察へ通報。救急車で来院したとき,血糖値はなんと10。発する声は言葉にならず,すぐに呼吸停止と徐脈が起きた。蘇生術と人工呼吸器でなんとか一命をとりとめたが,彼の望みはどんな状態なのか,分かりえず。
いちばん困ったのは名前。意識が回復せず,挿管もしているので,本人の口から名前は聞けない。筆談もできない。となると,呼びかける言葉が見つからないのだ。検査出しも,輸血申し込みの電話も,仮名だったり,「ナナシノゴンベイ」だったり。倒れていた場所が世田谷区だったから,区の福祉事務所では,「世田谷七郎」と呼ばれることになった。その年で7人目の身元不明者というわけらしい。そんなふうに処理されていくことを初めて知った。看護の基本,声かけも,名前がなくては様にならない。仕方なく「もしもし」とかける声の,なんと寂しい響きよ。改めて,「○○さん」と呼べることの大切さ,重みを実感した。
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