連載 かれんと
キエフのおばあさん
出雲 雅志
1
1松山大学経済学部
pp.715
発行日 1997年10月10日
Published Date 1997/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686900554
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久しぶりの京都はいつものように大勢の観光客でにぎわっていた.高層ビルが目につくようになって,またたく間にその様相を変貌させる街には今流行りのファッションを身につけた若者たちがあふれ,昔の落ち着いた面影を見つけるのは難しい.だが,変わったのは景観やファッションだけではない.
街を歩いていると,停車中のバスに乗ろうと前方から駆け寄ってくる一人のおばあさんが目にとまった.どうにか間に合った,とほっとしたその瞬間,バスはおばあさんをあざ笑うかのように置き去りにしていった.意地悪さというより残酷な敵意のようなものをそこに感じて衝撃を受けた.おばあさんはひっそりと呼吸をし,小さな体をより小さくしているように見えた.
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