連載 かれんと
「らしさ」をめぐるセンス
森下 直貴
1
1浜松医科大学
pp.519
発行日 1996年8月10日
Published Date 1996/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686900517
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園児や小学生の間でよく飛び交う言葉に,「おかま」がある.小学生たちは「ニューハーフ」とも言っている.朝,保育園に年長児の息子を送って行き,帰り際に母親をまねた声色やしぐさをすると,まわりにいた子どもたちが,「おかま!」とはやし立ててきた.一度や二度ではない.「変態だ!」「気持ちわるい!」という声も聞こえる.どう見ても否定的な反応である.そこで,「『おかま』ってなあに?」と尋ねてみたら,「男(女)なのに女(男)のまねをする人」という答えが返ってきた.また「ニューハーフ」とは,小学生の娘の解説によると,「混血のハーフとは違う新種のハーフ(男女)」だそうだ.
このような子どもたちの反応を引き起こしている犯人は,わが家の日常を振り返るかぎり,どうやらテレビのアニメ(同種の映画あるいはマンガ)のようである.特に園児がまねをしたがる『クレヨンしんちゃん』では,「おかま」が戯画的にしつこいほど描かれ,主人公によって嘲笑されまくっている.前々からその視点や表現が気になっていた私は,人権団体から抗議の声があがらないのがとても不思議で,娘たちにもそのことを話してきた.しかし,園や学校の先生や親たちの多くは,私が観察するかぎり,子どもが「おかま!」と叫んでも,ほとんどまったく意に介さない様子である.
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