連載 路上の人々・11
心の深き森へ
宮下 忠子
pp.975
発行日 2010年11月15日
Published Date 2010/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101959
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28年前,路上生活者の芝さんに出会った.当時上野公園の東京都美術館へ行く手前の右側に樹木が茂る.その隙間に,ホームレスの人たちの青テントが点在していた.私は,巡回しながら路上生活者に持参した食料を渡して,路上生活に到った理由を聞いて回っていた.その時,汚れ痛んだテントの入り口に,3匹の猫が寝ており,その横からニュッと片方の足が突き出ている.靴は黒ずみ,幾重にも裂けた靴下が足に脚絆のように纏わり付いている.
「こんにちは」と声を掛けてみた.テントが揺らぎ,白髪混じりの鬚を伸ばし,汚れ裂け変色した上着を重ね着した姿が現れた.私は絶句した.芝さんとの初対面であった.
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