連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・155
もうひとつのこころの動きを描き出す
柳田 邦男
pp.578-579
発行日 2019年6月10日
Published Date 2019/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686201322
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人はだれでも,こころのなかに他者に知られたくない“ひみつ”を持っている。“ひみつ”と言うと,ちょっと大袈裟に響くかもしれない。たとえば,私が10歳の頃だったか,いたずらごころで大きなアンズの木の枝に群がる小鳥たちに小石を投げたら,1羽に命中してしまった。小鳥は羽根をバタつかせながら墜落し,すぐ横の田植えが済んだばかりの水田にじゃぼんと落ちてしまった。田んぼは水が張ってあるので,中に入って助けてやることはできない。私は可哀そうなことをしてしまったと胸が痛んだが,そんなことをした自分が恥ずかしくて,家族にも友だちにも話せなかった。今にして思えば,そのことをこころのなかに“ひみつ”としてしまいこんだのだ。
絵本『ひみつのビクビク』は,主人公の少女「わたし」のこころの“ひみつ”をテーマにした,こころの成長の物語だ。
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