連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・123
この世界は生きるに値すると思える時
柳田 邦男
pp.754-755
発行日 2016年8月10日
Published Date 2016/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686200528
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数10億の人間が生きているこの地上では,戦争や民族紛争による大量殺りくや人種差別による虐殺,あるいは難民や貧民層の病死や餓死など,あまりにも不条理な死が多い。そのような現実を見ていると,暗い気持ちになってしまう。そんななかで,戦争を煽り兵器を売り込んで大儲けする“死の商人”や,非人道的な賃金で労働者を搾取する企業の経営者や,社会的弱者と言うべき障害者や高齢者や貧民層の人々を平然と差別する“小悪人ども”が跋扈する世界の裏街道に目を向けると,人間に対し絶望的な気持ちになる。
しかし,目をこらして世界の細部を見つめると,人間はそんな悪人ばかりじゃない。私たちの心をほっとさせてくれたり,感動と勇気を与えてくれたりする人々も少なくない。絵本のなかには,そんな人物やエピソードを素材にした作品が少なくない。主人公は偉人やスーパースターという類の人ではない。一部の人々にしか知られていなくても,輝かしい人間精神の極致を示してくれた人とか,平凡な庶民なのだけれど,生きる道を失った子どもを温かく支えて再生の扉を開いてあげたといった人々のことだ。
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