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連載を始めるにあたって
看護管理を担う看護職のなかで,師長は現場の看護実践の責任者であることはいうまでもないが,昨今では病院経営への参画も期待されるようになってきている。患者にとって十分かつ良質の医療を提供することと,在院日数の短縮化を図り,効率のよい循環を創造することを両立させることは多くの矛盾や葛藤がある。つまり医療者である看護師も,患者や家族も,穏やかで安心して暮らせるための準備をする期間としての療養生活を望むことはきわめて難しい状況にある。このことは師長にとっては現前する大きな課題であろうと考えている(注:助産師・准看護師も含めてここでは「看護師」とする)。
私は1997(平成9)年に『変革期の婦長学』を医学書院から出版した。これは1993(平成5)年に私の修士論文としてまとめた「婦長のイノベーションのモデルの開発」と,それ以前に行なった「看護師の臨床判断の構成要素と段階」の2つの研究成果を中心に書いたものであった。
当時,師長たちは今とは異なる時代のなかにいた。日本はバブル経済が破綻を来す前兆をかかえていたものの,いまだ実感は薄い時代であった。当時,私が着目した公立病院の師長は比較的安定した病棟運営ができており,時には現状維持にとどまっていても許容される風潮があった。私はそのなかでは比較的少数派であった病棟を変えた師長に着目し,彼女たちがどのように変革を成し遂げたのかを探求する研究に取り組み,その結果をモデルとして示した。
さて今,師長と呼ばれる看護師がどのような状況にあるのか,患者にとって,看護師にとって,異職種の医療チームのメンバーにとって,病院経営者にとって,などさまざまな視点から考えたとしても,やはり師長は看護の要の人物であり,師長のありようが,看護師や医療チームの文化に強く影響し,その結果が提供される医療に強く反映されていることには疑いの余地がない。今回は,『変革期の婦長学』の刷新をめざして,さまざまな角度から「師長の臨床」を記述することを試みたい。読者の皆さまからご意見を聞かせていただけることを願いながら,この仕事に取り組もうと思う。
最初のテーマは,2011(平成23)年3月30日に永眠した友人で同志でもあった平井さよ子さんとともに考えた,これからの私のミッションについて述べたいと思う。そのために,平井さんの生涯の生き方を含めたライフキャリア,私との時間を書いた2人のものがたり,そして平井さんが遺した私への宿題について順を追って読んでいただきたい。
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