連載 おとなが読む絵本――ケアする人,ケアされる人のために・57
子どもが手紙を書く時―『もりのてがみ』『てがみをください』『わたしのきもちをきいて II.手紙』
柳田 邦男
pp.634-635
発行日 2010年7月10日
Published Date 2010/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686101796
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手紙を書くというのは,おっくうなことと思う人が少なくないようだ。何かの礼状ひとつにしても,早く出さなければと思いつつも,1日のび,1週間のびてしまう。遅れたからには,それなりの事情やいろいろと近況も加えなければと思うと,ますます負担感がつのって,時間がかかることになる。私もそのひとりで,反省することしきりだ。そこに“革命”を起こしたのが,ケータイやパソコンによるメールの登場だ。メールとなると,「拝啓」とか季節のあいさつなどの前置きはいらないし,用件や気持ちをずばっと短文で打ち込めばいい。いまや,家族,友人,仕事関係などで,時間刻みあるいは分刻みのスピードでメールが飛び交っている。何と便利なコミュニケーション手段が発明されたことかと思う。
しかし,メールにも“落とし穴”がある。手紙の場合は,じっくりと考え,言葉や表現に気を遣い,文脈というものを大事にする。時間がゆっくりと流れ,相手に対する気遣いのゆとりもある。自分の手を使って一字一句に思いをこめて,文字の字画をたどっていく作業の過程では,自分が書いている言葉を,視覚をとおして客観視し,もう一度脳内で咀嚼するという営みがなされる。そこがスピードと簡潔さを優先するメールと,本質的に違うところだ。メールはどうしても発信者からの一方的な言葉の投げかけになりがちだ。
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