連載 医学のエコーグラフィー・4
「輸血」
橋本 一径
pp.792-793
発行日 2009年8月10日
Published Date 2009/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686101556
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1819年の統計によれば,パリ市内の病院において用いられたヒルの数は,総計で数十万匹にのぼった。別の報告によれば,1833年には,およそ4500万匹のヒルがフランスに輸入されたという。いずれも瀉血という治療行為に用いるのが目的であった。
体内から「悪い」血液を搾り出すことで,さまざまな病気の治療をめざした瀉血は,ガレノス流の体液説に基づいた治療法として,ヨーロッパにおいて古くから実践されてきたものである。あらゆる病気の原因が,粘液・血液・黒胆汁・胆汁の四体液のバランスの失調にあると考える体液説においては,体液の排泄を促し,バランスを取り戻すことこそが,治療の基本であった。近代に入り,ウィリアム・ハーヴィによる血液循環の発見(1628年)を皮切りに,体液説とは矛盾する観察もなされるようになってはいたのだが,臨床の現場においてはむしろ,瀉血・下剤・発汗は,定番の治療法として盛んに実践され続ける。たとえば王の治療の経緯を詳細に書き残したフランスの侍医たちの記録によれば,ルイ13世(1601-1643)は,ほぼ毎週のように瀉血を受け,ある年にはその数は47回にも上ったという1)。
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