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謝罪をめぐって――ある報道から
2007(平成19)年7月13日に東京司法記者クラブで,東京高裁の医療過誤控訴審和解協議の不成立という会見があった。帝王切開手術で出産後に死亡した患者の遺族が,損害賠償と謝罪を求め,町と担当医を訴え,原告側は,報道陣の前で担当医と町が謝罪することを要求したが,被告側が応じず不成立となったものである。遺族である患者の母は涙をこぼしながら,「ただ,みんなの前で謝ってほしかった」と繰り返したという。この裁判は,一審では担当医らの過失を認め,計7256万円の支払いを命じる判決となったが,原告側は「お金の問題ではない。医師らの謝罪がなければ認められない」と控訴した。控訴審では,賠償金と遅延損害金,医師らの謝罪を含む内容での和解手続まで進んだ。しかし,原告側が要求した「協議のあとすぐに遺族と共同で記者会見し謝罪する」という条項が和解調書に含まれていないとの指摘に対して,裁判所が「前例なし」という理由を示し協議不成立となったということである。
遺族が謝罪にこだわる理由として,「部屋の中で,私の前でだけで謝って,納得できるだろうか。担当医と町長が社会に対して頭を下げる覚悟をして,会見室まで一緒に来たなら,部屋に入る前に『もういいよ』と言ったかもしれない。それくらいの価値が娘にはあると思う」と報道された1)。用意された和解調書は,町議会を通過し,謝罪の条項も盛り込まれていたが,「公の前での謝罪」の1点で折り合いがつかなかったという。また,この裁判では遺族が一審判決の際に担当医ら3人を業務上過失致死容疑で刑事告訴しており,「被告側は刑事裁判を鑑みて憂慮し,公に謝罪することを拒否したことが考えられる」という専門家の意見も記事にある。しかし公的には,事故直後に病院側が過誤を認めて記者会見で謝罪しているので,すでに責任を認めたという事実があり,刑事裁判への影響のみで,和解後における公的な謝罪を拒否したとは言い切れないように思う。
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