連載 イラン・イスラーム共和国 異文化を通して見る看護[2]
イスラームの教えと異性患者への身体的ケア
細谷 幸子
1,2
1東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程
2日本学術振興会
pp.174-177
発行日 2004年2月10日
Published Date 2004/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100445
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信仰が看護行為に及ぼす影響
もう10年以上も前のことになる。当時,都内にある大学病院の手術室に勤務する新人看護師だった私は,ある日,緊急手術で運ばれてきた男性患者の陰部剃毛を担当することになった。全身麻酔導入後,患者の陰部に顔を近づけるような格好で剃毛をしていると,手術室に入ってきた若い男性医師が,私に向かってこう言った。「看護婦さん,それ,なんだかいやらしいなぁ」。必死に業務を遂行しようとしていた私は,その手技が性的な意味合いをもつとは微塵も思っていなかったので,「いやらしい」と言われ,非常に不愉快だったことを覚えている。
勤務する部署によって頻度が異なるとはいえ,日本の看護師にとって,異性患者の身体に触れるケアを行なうことは,日常的な業務の1つとなっている。そのため,看護師が異性患者のケアを行なう時,それが性的な意味合いをもつと意識することは,あまりないだろう。加えて,日本では患者の側も,身体に触れるケアを性的なものではないととらえる努力をしているように思える。しかし,イスラームを信仰する人々が圧倒的多数を占めるイランには,それが人間の生命に関わる医療の領域であっても,異性の身体に触れるということは,明らかに性的な行為であり,宗教的罪悪であると考える人が少なからず存在するのだ。
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