とびら
山の掟の教えから
白幡 淳
1
1酒田市立酒田病院
pp.1
発行日 2007年1月15日
Published Date 2007/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551100627
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私の住む庄内平野からは,勇壮に聳え立つ鳥海山を眺めることができる.標高は2,236mで,チョウカイフスマなどの高山植物が生育し,登山者にも人気がある.親子行事で鳥海登山を行った時のことである.その日は快晴.生徒と父兄合わせて約90名は順調な登山を続けた.青く輝く日本海が美しく,真夏の太陽に解ける雪渓を歩く音が静けさにこだまして幻想的だった.
私は最後尾を,妻は看護師として中列を任された.アクシデントは下山中に起きた.かけつけてみると,1人の父兄が両下肢痙攣のため急斜面で立ち往生していた.大人4人で押し上げようとしても効果がなく,救護セットは指のテーピング用のものしか残っていなかった.生徒の安全を守るため隊列は進行させた.斜面を背に,「帰りたい」と呟く父兄を支えながら,2人の足元から音もなく落ちていく小石が印象的だった.ふと,隊列ごとに数本のタオルを持っていくように指示したことを思い出した.タオルを引き裂いて両大腿,下腿部の痛みと疲労部位を考えて適宜に巻いた.すると,急に動けるようになり,まるで蜘蛛のようにするすると斜面を這い上がることができた.
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