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■相手に伝える情報を「プレゼント」ととらえる
「プレゼンテーション」。これに類するものとして,医療現場でよく使われるのは「コミュニケーション」という言葉である。著者はタイトルにもある「プレゼンテーション・マインド」という言葉に込められている意味を「コミュニケーションを通じて,相手にプレゼントをあげよう」と解釈したうえで持論を展開している。「プレゼンテーションは,まず聞き手の利益のために行なわれるべきである。聞き手の利益になる“情報というプレゼント”を与える。その結果として,それを与えた話し手にも利益が返ってくる」という考えに基づいている。すなわち,「相手のことを考えたパフォーマンス(自己表現)をすることによって,自分自身が得をする」ということである。その考え方は,プレゼンテーションを「ビジネス上の宣伝計画の提案」といった狭い概念にとらわれず,日常のコミュニケーションにも十分応用できるものである。自己表現能力を高めるにはどうしたらよいのか,まさにコミュニケーション・スキルを高めるためのノウハウが集約されている。
とかく医療現場では情報が一方通行になりがちである。インフォームド・コンセントの重要性が叫ばれ,その言葉が一般的な用語として定着するに至ったのがその典型例である。看護教育の現場にも似たところがある。授業のなかで「患者の立場に立って」と言いながら,学生の立場に立てない教員や,「患者のニーズをうまく把握しなければならない」と説明しておきながら,学生のニーズをなかなか把握できない教員は驚くほど多い。教員からの単なる一方通行的な価値観の押し付けになってしまうのはやはり問題である。そこには,相手に伝える情報を「プレゼント」ととらえる発想は残念ながら微塵もない。私たち医療者,教育者は,情報を伝える相手に対して「御為倒し」を口にするようなことがあっては決してならない。当たり前のこととはいえ,改めて肝に銘じておきたい。
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