- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
がん看護専門看護師として日々実践を重ねていく中で,問題が複雑で難渋した事例や場面は強く印象に残っている。例えば,社会的に脆弱で様々な問題を抱えている事例や,患者を取り巻く環境により問題が複雑化している事例,患者や家族との関わりに難しさを感じた事例,などである。このような事例や場面に対しては,その時その場で最大限できることを模索して実践し,失敗を重ねながら経験を積んでいった。このような事例を経験する過程で,自分は看護師としてどのような支援ができたのか,という疑問が湧き,積み重なっていった。
今回,事例研究に選択したAさんも,私が困難に感じた事例の1つであった。私はAさんに対して,看護としてその時々でできる最大限の関わりをしたつもりであり,自分の看護がAさんへ何かしらの影響を与えたと感じていた。しかし,その内容は曖昧であり,Aさんとの関わりが終了した後,実際自分はどのような看護ができたのだろうか,という疑問を抱き続けた。そこで,Aさんに対して看護として何ができたのかを明らかにしたいと思い,事例研究として取り組むこととした。
臨床の事例研究について山本,鶴田(2001)は,「臨床の事例研究とは,臨床現場という文脈で生起する具体的事象を,何らかの範疇との関連において,構造化された視点から記述し,全体的に,あるいは焦点化して検討を行い,何らかの新しいアイデアを抽出するアプローチである」と定義している。先に述べたとおり,私が事例研究に取り組もうと思った動機は,自分の看護の振り返りであった。そのため,研究により「新しいアイデアを抽出する」ことができるのかどうかは不明確なまま事例研究に取り組んだというのが正直なところである。そのような状況でも,CNSの仲間や先生方の厚いサポートをいただき,何とか論文としてまとめることができた。そこで今回は,事例研究を論文にする過程で,困難に感じたことと,困難に対応するために工夫したこと,大切にしたことを述べていきたい。
Copyright © 2023, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.