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はじめに
ナイチンゲールは,『看護覚え書』(湯槇,薄井,小玉,田村,小南訳,2011)で,「看護とは,新鮮な空気,陽光,暖かさ,清潔さ,静けさなどを適切に整え,これらを生かして用いること,また食事内容を適切に選択し適切に与えること—こういったことのすべてを,患者の生命力の消耗を最小にするように整えること,を意味すべきである」と述べている。
また,物音について,「不必要な物音や,心のなかに何か予感や期待などを掻き立てるような物音は,患者に害を与える音である」と書いた。そして,同じ音でも,「患者は,家の隣で建築の足場を築いているような大きな音には一般によく耐えられるものだが,そんな患者も,ドアの外の話し声,特に聞き慣れた人のささやき声などにはとても耐えられない」としている。さらに,陽光は新鮮な空気に次いで重要で,「病人を害する部屋は,閉め切りの部屋についで暗い部屋」であり,直接差し込む太陽光線が必要なのだと述べている。温度と湿度,照度,音など物理的な環境について看護領域の研究者が書いている論文には,しばしばこのようなナイチンゲールの言葉が登場する。いま改めて読み返しても,納得し,共感できる内容である。
さて,患者にとって安楽で最良な環境になるよう調整することは,看護師の大切な仕事の1つであり,基礎教育課程では,最初の時期に学ぶ。医療施設における環境には,先ほど挙げた空気や音,陽光のような物理的環境と,同室者の存在や医療従事者,面会者とのコミュニケーションなどの人的環境がある。これらが絡み合って,時に患者の療養生活に影響を及ぼすのである。本稿では医療施設の物理的な環境に着目し,リハビリテーション病院の患者のベッドサイドに環境センサを設置して測定した温度,湿度,照度,音のデータを示し,これらの看護ケアへの活用の可能性について考察する。
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