- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
モデルの背景
超高齢社会における認知症予防のあり方について
急速な高齢化が続く日本において,加齢が誘引となる認知症を予防することは,2005年の介護保険制度の改変以降も医療・保健分野だけでなく政策や行政,そして社会の関心事として取り上げられてきた。バイオマーカーを用いた病前診断や抗認知症薬の開発,BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;行動・心理症状)に対する学際的取り組み(Zwijsen et al., 2014)や抑肝散などに代表される漢方薬の開発(羽生,2013)など,認知症の早期診断・早期治療への挑戦はいまも続いている。しかし,認知症の根治的治療には限界もあるため,認知症予防は「日常生活の過ごし方を工夫する取り組み」として実施されてきた。日常的な軽運動(有酸素運動)が認知機能の維持につながるという知見(朝田,加藤,2008:兵頭,征矢,2011)に始まり,ワインや魚,野菜などを積極的に摂る食事栄養方法の効果(Luchsinger, Tang, Shea, & Mayeux, 2004:山下,2011),近年では「運動」「栄養」「知的活動と社会交流」「生活習慣の改善」などを含めた「複合型認知症予防プログラム」の取り組みが,認知症予防および介護予防に効果的であるとして報告されている(福間,塩飽,馬庭,2014)。
しかし,MCI(Mild Cognitive Impairment;軽度認知機能障害)を含めた早期段階の認知症では,日常生活に支障がないことから,治療や取り組みへの参加に躊躇する,あるいは継続しないなどの問題もみられる。また,認知症の症状出現には糖尿病や慢性疾患のコントロール状況も影響するため,認知症予防に特化した取り組みとその効果の判定は,現実的ではない。朝田ら(2013)の疫学調査から,日本の認知症者の8割が80歳以上の後期高齢者であると示されたことや,80歳代以降になると認知症と診断される人とされない人の知的機能の差は小さいことから,高齢期発症の認知症を病態として評価し得るかという意見(斎藤,2020)が呈されたことも考えると,認知機能を含めた“機能低下”のみに焦点を当て,その改善をめざす取り組みは,高齢者の自然な老いそのものを否定することにもつながりかねない。
Copyright © 2022, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.