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はじめに
看護理論はなぜ必要なのか
看護理論(看護論)がわが国に紹介されて久しい。アメリカで生まれアメリカで発展した看護理論は,1960年代に入って次々と日本語に翻訳され,当時「看護独自の機能」と「看護の本質」を求めていた日本の看護師たちに,吸い込まれるように浸透していった。多くの看護理論は「看護過程の展開」とリンクして,教育現場のみならず,さまざまな臨床現場においても学ばれて,看護の根底には何らかの理論が必要であるという思考が芽生えた。
しかしそうした動きは,21世紀に入ると,電子カルテと連動する看護診断システムなど,実践現場を動かす新たなシステムの導入に伴い,目に見えて衰退した。特別な理論を活用しなくても,実践を動かし,看護の質を担保できると錯覚してしまったかのようである。確かに新しいシステムは,看護の組織を再編成して実働の姿を大きく変化させ,時代の先端で仕事をしているように思わせる。時はまさに,コンピュータを駆使したIT技術に導かれて動いている。
このように変化した現場に,再び「看護理論」を根づかせるのは並大抵のことではない。結果として,看護師たちはまたもや「看護の本質」を見失い,看護師個々人の資質に基づいて,目前の仕事に追われた日々を過ごすことになろう。しかし,時代がどのように変化しようとも,看護実践は“看護の本質や目的”に導かれ,その目的を実現するために営なまれるものである。
看護の本質や目的を解き明かし,理論を実践に移す道筋を説いた理(ことわり)を「看護理論」と呼ぶ。どのような些細な実践にも「看護理論」を内在化させないと,看護行為は,たとえそれが最高度な技術であったとしても,単なる技術となり,実践の目的とその方向性を見失った行為に成りさがってしまう。したがって,看護実践の展開には,必ず看護の目的を明らかにした理論の活用が必要なのである。
以上が,「看護理論」に対する筆者の見解である。
本稿では,筆者が創出した「看護理論」について,その全体像を明らかにする。それは現在「KOMIケア理論」と称されており,アメリカ看護理論の系譜には属さない「日本独自の理論」である。根底にはナイチンゲール思想が濃厚に横たわっているが,『看護覚え書』の世界そのものではない。「KOMIケア理論」のKOMIとは,Kanai Original Modern Innovationの頭文字をとって命名したもので,“金井一薫による現代ケア論”の意を示している。さらに筆者の本名KOMINAMIのKOMIからとった名前でもある。
本理論は,2004年に発刊された『KOMI理論』(金井,2004)によって初公開されたが,その後,内容の大幅な改定を行ない,現在では『実践を創る新・看護学原論』(金井,2012)として世に出ている。
本稿においては「KOMIケア理論」創出に至るまでの歩みを紹介し,併せて理論の特徴を明らかにしていく。「KOMIケア理論」が,看護の本質と目的を明確にした看護理論として,今後多くの研究者や実践家たちの認識に届き,さらなる活用が推進されるならば幸いである。
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